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#095

岩手県南部鉄器 鉉鍛冶
菊池 翔

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南部鉄器 鉉鍛冶つるかじ
菊池 翔

Kikuchi Sho
1984年 岩手県生まれ

盛岡で唯一、手作業で南部鉄瓶の鉉を作る「田中鉉工房」で技術を磨く鉉鍛冶。

大学では「鋳造」の技術を学ぶ。在学中、「田中鉉工房」の伝統工芸士、田中 二三男さんの存在を知り、工房を見学しに行くうちに、鉉を作る「鍛造」に興味をもつ。

そして、田中さんに弟子入りを志願。熱意が伝わり、弟子入りを許される。

大学卒業後、田中さんに師事し、盛岡南部鉄瓶の鉉のほとんどを一手に担う、田中鉉工房の後継者として、高度な鍛造技術の習得に日々励んでいる。

重厚な 鋳肌 いはだ と素朴な味わい。
鉄瓶で知られる南部鉄器は、国の伝統的工芸品の第一号に指定されている。

菊池 翔さん インタビュー
鉉鍛冶の魅力は?

そもそも、鍛冶屋という仕事に興味がありました。大学で勉強していた、鋳物を作る「鋳造」は、製造工程の半分以上が、溶かした金属を流すための鋳型づくりなんです。その点、鍛冶屋の「鍛造」という仕事は一から十まで金属と向き合っていられる。金属という素材が好きな僕には魅力的でした。

金属の中でも、鉄は色んな表情を魅せてくれます。錆びて朽ちていく様は、まるで生き物のよう。土に帰っていく儚さ、移ろいを感じさせてくれる部分が好きですね。

鉉というのは、南部鉄瓶の中ではあくまで脇役。でも、鉄瓶という一つの完成された世界を作り上げるにあたっては、キーパーソンだと思うんです。目立つわけではないけれど、鉄瓶を使う時にはじめに触る部分でもあります。

鉉鍛冶として、この仕事を、次の世代の方にいい形でバトンタッチすることが夢ですね。そのために、まずは自分の腕をあげていきたいです。

鉄瓶の鉉は鉄を打ち形作る鍛造という技法で作られる。
脇役に徹しながらも、無くてはならない存在だ。

師匠 田中 二三男さん
インタビュー

つる」は南部鉄瓶にとってどういう存在ですか?

鉄瓶は鉉で決まると言っても過言ではないです。沢山の鉉を手で打って作っているんですが、機械じゃないから、微妙にそれぞれ違うんですよ。安い鉄瓶でも、良い鉉がかかっていると、ぐっとグレードアップしますね。

盛岡の鉄瓶は、手で打って作るからこそ愛好家がいるんだと思います。手作りの鉉が鉄瓶につかなかったら味気も何もないですからね。

「俺がいなくなったらこの文化が途絶えてしまう」と思っていたので、とにかく後継者を育てようと思っていました。それを考えると、翔の取り組む姿勢は本当に立派ですね。とにかくまじめ。俺が10年やった頃よりずっと良いと思いますよ。鉄瓶職人からも信用されているしね。今のところ非の打ち所はございません。

翔には、鉉の文化を後世に伝えていってほしいですね。この状態を続けていけばきっと大丈夫。明るい未来が開けると思います。

菊池 翔さん
弟子
菊池 翔さん
田中 二三男さん
師匠
田中 二三男さん

薫山工房 佐々木 和夫さん
インタビュー

田中鉉工房はどういう存在ですか?

切っても切れない存在ですね。鉉鍛冶がいないと仕事になりません。他所の産地の鉉と違って、職人同士の意思疎通を大切にしているからこそ、何十年、何百年と続いてきたのだと思います。

鉄瓶には必ず鉉が必要。でも、図面を書いて発注しているわけではありません。ですから、最初から、任せるつもりで鉄瓶を渡します。だからこそ逆に、彼らも勉強しなきゃならないと思いますよ。太さ、厚み、大きさに形。一口に丸い形といっても色んな種類があります。本体の形が如何に良くても合わない鉉を作ればどこかに違和感を覚えますし、良い作品とは言えません。

逆に、鉉の形の良さでお客様に評価されることもある。それくらい綿密なつながりがありまして、初めて鉄瓶という世界が出来上がります。

手を結んで一つの物づくりをしている、大事なパートナーだと思っています。

南部鉄瓶収集家 堀間 重仁さん
インタビュー

南部鉄瓶の魅力はなんですか?

コレクションをはじめたきっかけは博物館で開かれた企画展でした。そのとき、心の底から美しいと思ったんです。もっと見たいと思ったけど、それがどこにあるのかわからない。盛岡で生まれた南部鉄瓶が盛岡に無いことが、とても残念でした。そう考えると悔しくて、悔しくて。ならば自分の手で何とかしたいと考えたんですね。

古い南部鉄瓶を修復してもらうと、私の想像を遥かに超えて美しい姿を見せてくれます。錆びて、真っ黒だった鉄瓶が美しい銀色の輝きを放ったり、美しい漆の色が再現されていたりすると、ぐっと胸に迫ってくるものがあります。

南部鉄瓶は生活用品です。多くの人々に使われて、そして忘れ去られてきたものです。でもそこには職人たちの技と心意気がある。私が優れた鉄瓶を収集し、それを後世に残していく。それが故郷にとって価値あるものを残すことになるのではないでしょうか。

取材を終えて

熱い鉄を叩く「カンカン、トントン」という音。師匠の田中さんと弟子の菊池さんの金槌のテンポのいいリズムが工房内に響いていました。

2人は金鎚で会話を楽しんでいるようでした。一打一打、丁寧に作られる手打ちの鉉は、とても温かみを感じます。

菊池さんは、鉄瓶を持つとき、最初に触る場所だからこそ、手に触れる感覚を大切にしていると教えてくれました。

南部鉄瓶を見る機会があったら注目してみてください。その鉉から、優しい金槌の音が聞こえてくるかもしれません。

南部鉄器

南部鉄器なんぶてっき

鉄瓶本体は、釜師によって鋳型に溶けた鉄を流し込む「鋳造」という技法で作る。一方、鉉は、熱した鉄を叩いて鍛え、形作っていく「鍛造」という技法で、鉉専門の職人によって作られる。

南部鉄瓶は、本体に鉉が取り付けられることによって完成するもので、鉉は鉄瓶にとって欠かすことができないもの。

鉄瓶の形に合う様に、鉉のデザインを考え、正確に合わさるように作る。そのどれもが、熱した鉄を金槌でたたいて行う手作業。熟練の高度な技術を要する。