Onuma Yuta
1985年 栃木県生まれ
200年以上続く黒羽藍染紺屋の一人息子として生まれる。小さな頃から工房が遊び場だった雄大さんは、高校卒業と同時に藍染職人の道へ飛び込んだ。父 重信さんの勧めで、東京の江戸川区指定無形文化財・ゆかた染め(長板中形)の技術保持者、松原 與七さんに師事。師匠のもとで型染めの修行を積み、実家に戻ってからも紺屋を手伝いながら、月に何度か師匠のもとに通い技術を身に付けていった。雄大さんが24歳の時、重信さんが早世。9年前に紺屋の暖簾を受け継いだ。
先代たちが守ってきた技術や教えを礎に、若い人たちにも響く藍染を模索し続けている。
「青は藍より出でて藍より青し」ということわざがあります。「荀子」にある言葉です。弟子が先生より優れること、学問・努力によって天性以上の人になることのたとえに使われますが、藍染を知らなければ意味が分かりづらいかもしれません。 藍の葉の中には青色(藍色)に染まる色素の元がありますが、空気に触れて酸化しなければその色を出すことはありません。「藍染の青い色は藍の葉から生まれるけれども、藍葉の緑より美しい青になる」。こう聞くと、昔から藍染が知られ、使われてきたことがよく分かります。
他にも「藍職人は病気知らず」という言葉もあり、藍は薬草としての効能も期待され、さらに染料として使用することで生地が丈夫にもなります。
このように、藍は昔から広く知られ、美しい色とともに長い間愛されてきたんです。
星野リゾート 界 鬼怒川
藍染の良さをもっと多くの人に知ってほしいと思っています。
うちは暖簾や幟などを扱うことが多かったんですが、私の代になってからは若い人に手に取っていただけるようにスニーカーやバッグなどを染めることにチャレンジしました。型は使えず、糊も今までのものは使えませんので、いちからの取り組みでした。試行錯誤しながら何足もスニーカーをダメにして(笑)他にも、地元の中学校で藍染の授業を年に一度やらせていただき、少しでも藍染を知っていただけるようにお話をさせていただいています。
昨年秋に鬼怒川のホテルからの依頼で、9・9m×2・5mの大暖簾を製作しました。東照宮や山や月など、日光の景色を糊で描き、11分割して藍染をしました。大物ですし、それぞれの色をきっちり合わせるのに神経を使いましたが、完成した時には大きな達成感を味わうことができました。
「すくも」を発酵させる場所を「藍の寝床」と言います。
寝床の土は真ん中が10cmばかり高くなるように均します。これが一番大事な基本です。真ん中の温度が高くなりすぎると藍が焼けるんですね。死んでしまいますんで。だけん縁も真ん中も同じ温度になるように、長年の経験で生まれた方法です。
9月の一番最初の大安の日から寝せ込みを始めます。100日間ずっと水を打って、藍の葉をかき混ぜる「切り返し」をして育てていきます。11月の20日頃に藍が固まってきますので「通し」といって粉に砕いて、初めてムシロの布団を掛けるんです。近所の社に立つイチョウの葉が色付いた日に行うのが代々の教えです。
私の家はどんなに忠実に藍の製造を今まで通りやっていくか。それだけです。
江戸時代より伝わる伝統技法です。 阿波藍で作られた良質の「すくも」と木灰からとった灰汁を大谷焼きの藍甕で発酵させて染め液を作ります。苛性ソーダ、ブドウ糖など化学薬品は一切使いません。良質の木灰を使うて、いい灰汁をとるのが大事。うちのは樫、ウバメ樫、橅の3つの灰を混合して使うてます。堅い木でないとだめです。
藍が建つまでは一時も気が抜けません。五感をフルに使うてほんまの勝負です。建ってからも毎日櫂入れし、藍の健康状態を正確に把握して、数日先の染め液に良いように、先を読んで手入れ方法を判断しています。
本来の技法を残すことが本物の藍の色を残すことにつながり、ひいては阿波藍の普及にもつながります。ちゃんとした技法を残していくことが関わっとる者の責任やと思います。
生地が藍甕から出た瞬間、茶色から緑、そして藍へと変化する様は神秘的でした。
雄大さんは歴史深い藍甕と会話するように染めて行きます。真剣な眼差し。流れる神聖な空気。気がつくとこちらの息が止まっていました。
そもそも藍染がどのように行われるのか?
取材を始めるまで全く知らなかったため、「藍甕」、「すくも」、「天然灰汁発酵建て」、見るもの全てが目から鱗でした。
今回、雄大さんをはじめ、藍染に関わる沢山の職人さんとお話させていただき、皆さんの藍染にかける一切妥協の無い姿勢や熱い思いを肌で感じることができたことが何よりありがたく刺激的でした。
日本の藍を守り抜いていらっしゃる佐藤昭人さん、息子さんの好昭さん。人生をかけ藍と向き合う矢野藍秀さん。大変貴重な「すくも作り」「藍建て」を拝見させていただき、ありがとうございました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
日本文化を彩る美しい「本藍染」は、匠の技が生み出す生きた輝きに満ちている。
天然藍は世界中の最も広い地域で、最も古くから用いられてきた植物染料といわれている。防虫・防腐・抗菌などの効果が期待され、愛されてきた。化学染料の誕生で急激に衰退したが、日本には古くから伝わる独自の「すくも法」による本藍染が残っている。世界的視野で見ても大変貴重な存在である。
「すくも」とは蓼藍の葉を発酵させて作った藍染の原料(染料)である。藍師と呼ばれる職人により100日間、手間暇かけて生み出される。この「すくも」を今度は藍染職人、紺屋が甕の中で灰汁や麩などを加えてさらに発酵させる。これを「天然灰汁発酵建て」という。そうしてできた藍染液を操り、思い通りの藍に染め上げてゆく。知識と経験がものをいう大変手間のかかる手仕事だ。