Yoshida Senko
1994年 兵庫県生まれ
五百年の歴史を誇る国指定重要無形民俗文化財、淡路人形浄瑠璃。
淡路島で誕生し、日本各地に伝わる人形芝居の発祥とされ、世界文化遺産である「文楽」も、淡路島から伝わったといわれている。
人間を超える人間らしさ、とも言われる人形浄瑠璃に衝撃を受け、地元南あわじ市の中学、高校在学中は郷土部に入部、淡路人形浄瑠璃を学び、それぞれ部長も務めた。
現在は、淡路島に唯一残る「淡路人形座」で女性人形遣いとして修行に励み、「吉田千紅」という芸名で活動している。
人形浄瑠璃は、物語を語る「太夫」と「三味線」、人形を操る「人形遣い」の三業が一体になって作り出す舞台です。
一体の人形を三人の人形遣いが操ります。足を操る「足遣い」として舞台に立つ時、三味線に合わせトントンと足を踏み鳴らすのですが、その音と三味線の旋律が合った時、人形遣いの三人の呼吸が合った時、そして何より、太夫、三味線、人形遣いのすべてが合った時は、言葉では言い表せないほど楽しい気分になり、人形に魂が宿る感覚を実感できます。
お客さんに人形浄瑠璃の楽しさが伝わるように、これからももっともっと精進します。
人形には人間以上の美しさがあります。女性の人形には色気があり、男性の人形は力強さがあります。喜怒哀楽も含めて、人間以上の表現ができますので、人形の魅力をもっと引出し、伝えられるようにしていきたいです。
また、淡路人形浄瑠璃の人形は大きいのが特徴で、鎧を着た武士の人形の重さは10kgを超えます。今、女性人形遣いは私だけですが、重さに負けず、どんな役柄の人形でも操ることができる人形遣いになりたいです。
人形遣いの世界には、「足八年、左八年、頭一生」という言葉があります。修業は一生続くという意味です。一生かけて技を極めていきたいと思っています。死ぬときは舞台で死ぬ覚悟はできています、人形が持てなくなるまで続けますよ。大好きな人形ですから。
「芸は人間性が出ます」。どんなに上っ面できれいな芸を見せても、必ずどこかで人間性が出ます。心がきれいでなければ、舞台に立つ資格はないと思っています。彼女の人形に対する姿勢は真剣で嘘がありません。どんなことでも素直に吸収しようとします。その姿には僕らも刺激を受けます。とにかく人形が好きなんでしょう。
辛くて厳しい修行も、楽しさに変えてしまえるほど明るく前向きな性格です。舞台に立つ彼女の姿を見てもらえれば、彼女の魅力がわかると思います。
舞台の照明にも負けないくらい輝いていますよ。
取材の合間、千紅さんが、無料通信アプリ「LINE」に「淡路人形浄瑠璃のラインスタンプ」があることを教えてくれました。
笑顔でお酒を飲む「戎様」、大量の涙を流す「傾城阿波の鳴門の子役 お鶴」、張り切っている「黒子」などなど、可愛らしいものがたくさん。
千紅さんは、「これがきっかけで若い世代にも淡路人形浄瑠璃の面白さを知ってほしい」と語っていました。
その言葉、そして表情には、素晴らしい伝統を受け継ぐ若者の誇りと、強さを感じました。
五百年の歴史を誇る国指定重要無形民俗文化財、淡路人形浄瑠璃。
室町時代後期、人形遣いの元祖、百太夫が淡路島に移り住んだことに始まる。
江戸時代、娯楽として歌舞伎と人気を二分し、歌舞伎の演目の中には人形浄瑠璃が元になっているものが多く残されている。
淡路島にあった多くの人形一座が全国を巡業。各地に伝わる人形芝居の発祥とされ、世界文化遺産「文楽」も淡路島から伝わったといわれる。大きな人形、早替りなど独特の演出があり気軽に楽しめるのが特徴。
現在、唯一残された「淡路人形座」では、一年を通して様々な演目を見ることができる。