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#072

兵庫県淡路人形浄瑠璃 太夫
竹本 友里希

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淡路人形浄瑠璃
太夫 
竹本 友里希ともりき

Takemoto Tomoriki
1995年 兵庫県生まれ

「淡路だんじり唄」の唄い手である父を持つ彼女は、幼い頃から浄瑠璃の節回しを耳にして育った。

中学校に入学すると郷土芸能部に入部、翌2年生の時には、南あわじが生んだ人間国宝・鶴澤友路氏に弟子入りする。

高校2年生の時、太夫を生業とする苗字「竹本」を名乗ることが許され、名前には師匠から「友」の一字と、「ふる里」に「希望」をという想いが込められ、「竹本 友里希 ともりき 」という芸名を授かった。

高校卒業と同時に淡路人形座に入り、太夫として活躍している。

兵庫県淡路島の南端、南あわじ市にある淡路人形座。
ここに、伝統芸能の技を継承しようと努力を続ける若者がいる。

竹本友里希さん
インタビュー

太夫を選んだ理由は?

中学進学後、両親は兄や姉と同様に、私を運動部に入れたいと思っていたようですが、私は淡路人形浄瑠璃を学ぶ「郷土芸能部」に入部しました。

入部のきっかけは「一度見学においで!」と、仲良しの先輩に誘ってもらったことでした。部活を見学に行くと先輩が太夫をやっていて、その姿に感動して「自分も太夫をやりたい!」、そう思ったんです。

太夫をやっている先輩はまるで別人でした。普段の姿からは想像もできないほどの豹変ぶりで、登場人物ごとに変わる声、感情豊かな表情、どこをとっても感動しかありません。「どうやったら、人はあそこまで変われるんだろう?自分もあんな風に変わってみたい!」と、思いました。

公演中の「傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段」
通称「阿波十」

元々変身願望があったんですかね(笑)。

とにかく、すぐに入部を決意し、翌年には人間国宝でいらっしゃる鶴澤友路師匠に弟子入りしました。近くに友路師匠のような偉大な方がいらしたことは、私にとって凄くラッキーだったと思います。

太夫の難しい点は?

太夫として大成するのは、様々な人生経験を積んだ50歳を過ぎてからと言われています。

まだ20歳の私には、圧倒的に人生経験が足りません。もちろん発声技術など、それ以外にも磨いていかなくてはならないことがたくさんありますが、「こんな時、人はどんな感情を抱くのか?」、ということをしっかりと理解し表現することが、太夫として最も大切なことだと思っています。

そしてこれが一番難しい点でもあります。

地元の小学校で行われる出張講座の担当を
初めて任されることになった

例えば武士の感情などは、理解しづらいことが多いです。主君に仕え、その主君のためなら命すら投げ出す。現代では到底起こりえないことですからね。

そして、今(※取材時2015年6月現在)上演中の演目は、「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」という母と娘の再会と別れを描いたお話なんですが、母になった経験のない私は、母親の役作りにとても苦労しています。娘の気持ちは、小さい頃、自分が迷子になった時の気持ちを思い出したりして、試行錯誤しています。

とにかくすべての経験が役作りに活きてくるので、休みの日は必ず外出して、街で人間観察をしたり、いろいろなお店に入って店員さんとお話ししたりしています。

太夫という仕事は、一生かけて追求していくものだと思います。生まれ故郷にあるこの素晴らしい伝統、文化を守り、ますます発展させていけるよう、これからも精進していきたいと思います。

取材を終えて

取材が終わった翌日、友里希さんは東北の子どもたちに淡路人形浄瑠璃を伝えるため、淡路島を立ちました。人形遣い、三味線弾きの3人で、東北のさまざまな地域を半月かけて回るそうです。そして、それが終わるとすぐに、パリとミラノへヨーロッパ公演に出るとのこと。

彼女はまだまだ技術の習得に日々精進しなければならず、かつ普及活動も行わなくてはならない。本当に多忙な毎日を送る彼女。しかし、自分が本気で愛する道だからこそ、決して弱音を吐くこともなく、常にこの仕事ができることへの感謝の気持ちを持ってやり遂げる。

「太夫を自らが最も輝ける道」、そう話す彼女には、すばらしい未来が待っているに違いありません。

人形遣いの元祖、 百太夫 ひゃくだゆう
(国立国会図書館 蔵)
百太夫

淡路人形浄瑠璃

五百年の歴史を誇る国指定重要無形民俗文化財、淡路人形浄瑠璃。

室町時代後期、人形遣いの元祖、 百太夫 ひゃくだゆう が淡路島に移り住んだことに始まる。

江戸時代、娯楽として歌舞伎と人気を二分し、歌舞伎の演目の中には人形浄瑠璃が元になっているものが多く残されている。

淡路島にあった多くの人形一座が全国を巡業。各地に伝わる人形芝居の発祥とされ、世界文化遺産「文楽」も淡路島から伝わったといわれる。大きな人形、早替りなど独特の演出があり気軽に楽しめるのが特徴。

現在、唯一残された「淡路人形座」では、一年を通して様々な演目を見ることができる。