Ohata Kimihito
1983年 島根県生まれ
室町時代後期に誕生したと伝えられる 石見 神楽。
島根県の西部、石見地方の伝統芸能であるこの神楽に欠かせないのが和紙で作られた「面」と、重いものでは30kgにもなる絢爛豪華な「衣裳」。
衣裳刺繍職人の手で一針一針縫い上げ、驚きの立体感に仕上げる伝統の技を習得し、守り続けるための研鑽の日々を送っている。
「石見神楽 面師」に続く、石見神楽シリーズ第2弾。
16歳の時に、神楽で知り合った仲間と神楽団を結成し、衣裳を注文しに老舗の衣裳屋さんのもとを訪ねた時、「職人が少ないから完成までに2〜3年かかる」と言われました。それなら自分で作ろうと思ったのがきっかけです。
石見神楽の盛んな浜田市で生まれ育ち、物心が付いた時から神楽を舞っていました。幼い頃の遊びと言えば「神楽ごっこ」。いつも自分たちで道具を作って遊んでいたので、「できる!」と思いました。
でも、いざ作ってみたら苦戦続きで、最初の1着目は、結局完成までに5年もかかってしまい、忙しい衣裳屋さんの言っていた期間より長くなってしまいました(笑)。
それからは、常に神楽の衣裳のことを考え、勉強してきました。
高校卒業後10年間はクレーンを操縦する仕事に就いていましたが、神楽への情熱は日々増す一方で、「神楽を生業に生活したい!」と決心し、28歳の時に神楽衣裳「大畑や」を設立しました。
一つひとつの部材が完成し、全てを縫い付け終わった時、最高に興奮します。
神楽衣裳はとても派手ですが、作業そのものはとても地味で根気と忍耐力が必要です。でも、その瞬間に全て忘れるくらい興奮します。
そして、注文された神楽団の皆さんが、完成した衣裳を見て喜んでくださったら、これ以上の喜びはありません。
少しでも納得いただけない所があれば、ご意見を伺い、喜んで直させていただいています。「常に勉強させて頂く」これが自分のモットーなのです。
設立から5年が経った「大畑や」ですが、私を含め5人のスタッフ全員が神楽団に所属する「神楽人」。笑いが絶えない明るい雰囲気を作ってくれるからこそ、工房での作業ははかどり、良い作品に繋がっていくのだと思います。
これからも、神楽の舞手だからこそ作れる衣裳を目指し、日々、努力していきたいと思います。
今回、長期にわたる取材で、龍と鳳凰が刺繍された「陣羽織」製作の一部始終を見せていただきました。大畑さんは、一針一針に思いを込めて縫い上げ、でき上がった時には、まるで自分の子どもが生まれたような喜び様でした。
そして、注文した神楽団の方々が完成品を受け取りに来られ、工房から搬出されると、「なぜかいつも寂しいんですよね。この瞬間は…」と、目に涙を溜めてつぶやいた時の表情が、大畑さんの仕事に対する思いの強さを感じさせてくれました。
石見神楽は、島根県西部の石見地方に伝わる伝統芸能。
五穀豊穣に感謝し、神職による神事だったが、明治政府から神職の演舞が禁止されると、土地の人々に受け継がれ、民俗芸能として根付いていった。
その起源は定かではないが、一説には室町時代には原型が出来あがっていたと伝えられている。早いテンポの囃子、勇壮な舞、豪華絢爛な衣装が特徴。
石見神楽面や大蛇で使用する蛇胴は、世界遺産「石州半紙」で作られている。
スケールの大きさとダイナミックな動きは、他に例を見ない。