Egi Yuya
1985年 島根県生まれ
島根県西部の石見地方の伝統芸能「石見神楽」。
石見神楽の盛んな江津市で生まれ育ち、幼い頃から神楽面や道具を作り「神楽ごっこ」で遊んでいた。
中学生の時、友人たちと神楽団を立ち上げ、そこで使用するために神楽面作りを独学で身に付けた。
高校卒業後、一度は就職したものの石見神楽面を生涯の仕事にしたいと4年前、職人の道を志した。
現在、神楽団から依頼を受けた面や古く伝わる面の修復や復元も行っている。面師であると共に神楽の舞手でもあり、神楽一色の研鑽の日々を送っている。
家は農家で、工房は田んぼの前。稲の成長を見ながら五穀豊穣を願う神楽があって、それに使う神楽面を作る。しかも、面作りに必要な粘土や和紙は、すべて地元のものばかり。
「ここで暮らして生きている」そう実感できるからですね。
神楽が好きでたまらないという気持ちももちろんありますが、生まれた時から神楽が身体に染みついて、必然的にこの道に入ったという感じです。
すごくありがたいことだと思っています。好きなことで生活できるのは、本当に幸せです。
神楽と向きあっていくうちに人生があっという間に過ぎていくのではないかと思います。
面は形が仕上がっても完成ではありません。「面」として表情は変わりませんが、舞台上でその表情を変える瞬間があります。面に魂を吹き込むのは「舞手」で、舞台で舞うことにより表情が生まれ、面が生きてくる。その時、初めて面が完成するんです。
面のできが良いとかではなく、「面」としての存在を感じさせないものが理想です。生きている面を作れるように、作品に真摯に向き合っていこうと思います。
そして、石見神楽を楽しんでもらい、舞台で躍動する僕の面を見に来ていただければ、そんなにうれしいことはありません。
取材をしたのは「秋」。秋祭りのシーズンで、どこからともなく神楽囃子が聞こえてきました。
五穀豊穣を願う神楽、稲の収穫時期でもあり、田んぼは黄金色に輝いていました。実家が農家である惠木さんに、新米の「おむすび」をごちそうしていただきました。
つやつやに光るお米、のどかな田園風景を見ながら口いっぱいに頬張って食べるおむすび、都会では味わえない贅沢な時間でした。
石見神楽の魅力について話す惠木さんのまなざしには、地元を心から愛し、ここにしかない伝統芸能を受継いでいくことへの誇りを感じました。
石見神楽は、島根県西部の石見地方に伝わる伝統芸能。
五穀豊穣に感謝し、神職による神事だったが、明治政府から神職の演舞が禁止されると、土地の人々に受け継がれ、民俗芸能として根付いていった。
その起源は定かではないが、一説には室町時代には原型が出来あがっていたと伝えられている。早いテンポの囃子、勇壮な舞、豪華絢爛な衣装が特徴。
石見神楽面や大蛇で使用する蛇胴は、世界遺産「石州半紙」で作られている。
スケールの大きさとダイナミックな動きは、他に例を見ない。