Goto Shunsuke
1990年 大阪府生まれ
Goto Rina
1991年 奈良県生まれ
夫の竣輔さんは大阪府の出身。妻 里奈さんは奈良県の出身。竣輔さんは野球一筋の少年時代を過ごし、大学在学中に救急救命士の資格を取得するが「ものづくりで人々の生活を支えたい」との想いを捨てきれず、錫器職人の道を歩み始めた。現在、職人歴は11年で、ろくろや鋳造を担当している。
一方、里奈さんは、子どもの頃から絵や工作が大好きで、大学で陶芸を学んだ後に専門学校に入学。そこで金属工芸を学んだ。そして、関西で金属を用いた伝統的な工芸品を探していたところ「大阪浪華錫器」と出会う。現在は、中仕事と呼ばれる加工作業を担当している。
鋳造はタイミング勝負なので、それを覚えるのが大変でした。ろくろは最初から最後までずっと勝負時が続く作業で、初めからズレや歪みができないように真っ直ぐ作っていく必要があります。 途中から修正しようにも、できないことのほうが多いんです。
職人となって11年で「一通り仕事は覚えた」というところまで来ましたが、ベテランの職人さんは「特注品の一点もの」という初めて作るものでも、毎日作っているかのように悩むことなくスイスイと作っていくのは、本当に凄いと思います。
今は自分のできる範囲で毎回100点、ベストを出し切ることを意識しています。
主に表面の仕上げ、注ぎ口や持ち手のパーツをつけるロウ付け作業をしています。加飾が入らないものは中仕事が全ての仕上げになるし、私の仕事が甘いとろくろでの仕事が台無しになってしまうので、一つひとつの作業を確実に丁寧にやるよう心がけています。
7年目になりますが、入社当初よりできることが増えた分、気になるところも増えてしまい必要のないところにまで時間をかけてしまうことがあるので、少ない手数で手早く、 求められている仕事ができるようになりたいです。
また、製作はできるんですがまだ修理はできないので、修理の仕事ができるようになりたいですね。
二人とも非常に真面目で器用で教えたことは順調に身に付けていっています。 竣輔はもう11年ですから、あと何年もすれば伝統工芸士になると思います。ただ、二人とも自分の限界を分かっていないんじゃないかと感じています。「今できることを一生懸命やる」 っていうのも非常に素晴らしいけど、仕事をだいたい覚えてからは挑戦が必要なんです。錫っていうのは失敗しても溶かして作り直せますから「失敗を恐れんと挑戦してほしい」っていうのが正直なところです。
改めてものづくりの素晴らしさを感じた。日本の伝統工芸品は総じて質が高い。当然のことながらそれは作り手が素晴らしいからだ。
竣輔さん、里奈さんが働く会社はとても家庭的な雰囲気。職人たちの年齢の幅が広く、一方で互いの距離がとても近い。それがとても良い仕事を生み出しているようだ。
ベテランの経験や技術が若い職人たちに受け継がれ、逆に若手の新たな発想が会社全体に刺激を与え新しい大阪浪華錫器を作る。その中で職人として成長を続ける竣輔さん、里奈さんの仕事はとても丁寧で一つひとつの商品に心を込めて接していた。
「使う人の宝物になって欲しい」。
竣輔さん、里奈さんのものづくりへの情熱は、きっと新しい時代の「大阪浪華錫器」を生み出してくれるだろう。
大阪府大阪市周辺で作られている伝統工芸品。
錫は飛鳥時代の頃から使用されていたことが確認されている。古くは宮中や祭祀など特別な場所でしか使用されなかったが、江戸時代初期の文献には錫器職人の姿が描かれており、その頃には錫製品が庶民に広まっていたと考えられている。
大阪市周辺では江戸中期ごろから国内最大の生産地となり、最盛期の昭和初期ごろは250名ほどの職人がいたとされている。
第二次世界大戦で材料の入手が困難になり厳しい時代を迎えるが、1983年(昭和58年)3月に「大阪浪華錫器」として伝統的工芸品に指定される。大阪での伝統的な錫器の製造を続ける工房は、現在、この「大阪錫器」1社だけとなっている。