Kurihara Daichi
1987年 東京都出身
服飾デザイナーを目指して学校に通っていたが、祖父から富士製額を紹介されたことがきっかけで工房見学に行く。
もともと趣味が美術鑑賞で美術館に足を運ぶことも多かったことや、「人を飾る服」と「絵を飾る額縁」という共通点から額縁づくりの面白さに一気に引き込まれ、その日のうちに職人の道へ進むことを決意する。
持ち前の向上心の高さと何事にも物怖じせず挑戦していく姿勢が師匠の福徳寿男さんに認められ、額縁づくりの仕上げの技術を次々と授けられる。
16年目となった現在、東京額縁の伝統を守り続けるため日々研鑽を積んでいる。
最も大切にしていることは「絵が主役」ということです。絵より目立って邪魔をしてはいけないし、かといって存在感が全くないっていうのも絵の装いとしては不十分です。額縁のせいで絵の魅力が伝わらなくなってしまうのは、作品を描いた作家さんにも大変失礼なことですから、「あくまでも絵が主役」という考えを常に念頭に置くようにしています。
一番最初に額縁を全部一人で作ったのは3年目ぐらいの時ですね。よく発注をいただける作家さんの額縁を「この先生の作品に合わせた額縁は、基礎が詰まってるからやってみろ」って任せてくれたのが最初です。
でもそれは作家さんに納得いただけなくて、返品されてしまったんです。
戻ってきた額縁を師匠が見て「ここが悪い」って教えてくださって、その後一緒に作り直してくださいました。自分の作りたいものを作るだけでなく、お客様の要望に応えることが職人の仕事なんだと実感しました。
師匠はいろいろな装飾の技術だけでなく、社会に出たてで世間知らずだった僕にたくさんのことを教えてくださいました。
師匠は僕が「やりたい」ということは「やってみろ」って、どんどんやらせてくれました。
初めて工房に来た時に師匠が箔押しの仕事を簡単そうにやってたのを覚えてて、入社してすぐ「僕もやりたいです」って言ったら「やってみな」ってやらせてくれたんです。
全然できなかったんですけど、怒らないでいてくださいました。
今になって思うんですけど、教えてる間は自分の手も止まるし、出来上がりが不十分だったら自分が直さないといけないから仕事も増えますよね。僕が「やりたい」と言えば言うほど師匠の仕事は増えてたと思いますが、嫌な顔をされたことは一度もなかったです。
美術館などで飾られるときは絵を描いた作家さんの名前は掲示されますが、額縁を作った職人の名前が載ることは絶対にありません。
しかし、世界的に有名な画家の作品の一部になれるのはとても光栄なことです。
そこが最大の魅力かな、と思います。
経年を表現する古美の仕上げは額縁ならではの仕事だと思いますので、やっていて本当に楽しいです。
ただ、「200年前の作品に合わせた額縁」と言っても200年前の流行りで作るわけじゃなくて、今の流行りを取り入れて、現代の部屋に飾ることを想定して作ります。
お客様の要望に合わせるには引き出しを多くしておかないといけないですから、そのために多くの額縁を見て勉強することも必要です。
美術館に行って額縁を見ると、毎回新しい発見があるのでとても勉強になります。
今回も学ぶことの多い取材だった。特に主人公・栗原さんの額縁作りへの思い、良い額縁を作るため、職人16年目の今でも美術館に通う姿勢は、初心にかえる事の大事さ、常に新しい目で観察し発見することの大切さを気付かせてくれた。
額縁づくりはいくつもの工程や時間をかけての作業。今回はこれまで以上に足を運んで密着させてもらった。繊細で丁寧な職人仕事を堪能した。特に箔押しは少しの風も作業の大敵。真夏の工房でエアコンをつけず、汗だくになりながらも一枚一枚きっちり箔押しをしていた姿が忘れられない。なにごとも細部をおろそかにしない姿勢もまた学ぶこと大であった。
教えを請うた師匠への感謝とその技術を繋ぐ伝統工芸への責任感も強く感じられた。栗原さんは額縁を作ることによって、自分が生まれる前の絵画の作者と一緒に仕事ができることが嬉しいと言っていた。時をつなぐ仕事は額縁職人の醍醐味だろう。偶然入った額縁の世界だったが、師匠や仕事仲間との出会い、自らの努力、諦めない向上心によって素晴らしい職人になったのだと思う。次はどんな巨匠の額縁を手掛けるのか楽しみだ。
東京都指定の伝統工芸品42品目のうちの一つ。
江戸時代以前の日本の絵画鑑賞は、屏風や掛け軸といった形が主流だった。
明治時代になると日本人画家によって西洋画が描かれるようになり、それに従い額縁が必要となってきた。
当初は指物師や表具師・塗師たちが分業で額縁製作をしていたが、「額縁師」の誕生は明治25年、長尾健吉がフランス帰りの洋画家・山本芳翠の勧めで芝愛宕町(現在の港区芝付近)に工場を建てたことが始まりとされている。
複雑な装飾は木彫ではなく、膠や胡粉で作った粘土を木型に詰めて作る「飾り型」を用いて作るのが東京額縁の特徴。
額縁には絵の魅力を引き立てるほか、絵の保護の役割もあり、絵画を鑑賞する上で欠かせない存在となっている。