Tsutsui Kensuke
1983年 京都府生まれ
織物で有名な街、西陣に生まれ育った。
両親が服飾関係の仕事をしていた影響もあり、一度は洋服販売の職に就くが、22歳の時、能装束の制作現場を訪れたことをきっかけに、織師という職に魅了される。
そして、強い思いを胸に能装束制作の名門、佐々木能衣装の門を叩いた。
現在、居並ぶ先輩職人の熟練技を肌で感じながら、技術を磨く日々を送っている。
22歳の頃は、まったく別の仕事をしていました。
そして、特に深い考えもなく、「一度、西陣織を作っている現場を見てみたいなぁ」くらいの軽い気持ちで、佐々木さんの工房を見学させてほしいとお願いしたんです。もちろん、「ここの職人になりたい」、という考えはこの時ありませんでした。
ところが、仕事場に入った途端、まさに体に電気が走ったんです。
その時は工房内に誰もいなくて、ただ機だけが静かに目に入ってきました。それは圧倒的な存在感でした。その機が動く姿を見たい、そして自分で機を動かしたい、と強く思ったんです。
うまく言葉では表現できないのですが、その時の自分の思いや感覚には不思議と自信がありました。そして、自分を信じて、翌日正式に入門をお願いしに行きました。
まだ織りをやりたいのに終業の時間が来てしまうことくらいですかね(笑)
失敗もあるんですけど、それを乗り越えて成長できる毎日が楽しくてしょうがないんです。そして、まだまだ満足できるものを織り上げていないので、もっともっと頑張らないと。
この道何十年の、尊敬する大先輩達でさえ、いまだに「まだまだ満足できない」とおっしゃっているので、自分はその何倍も何十倍も努力しないと、って思っています。
常にこの装束を身に付けられる方のことを思って織りを進めています。
見た目はもちろん、演者の方が舞台の上で、より演じやすいよう、表現しやすいよう、少しでも軽く、柔らかく作るよう考えています。
それには手間も時間もかかります。しかし、そこを省いたり、手を抜いてしまったりしては、本当の意味での〝良い物〟は作れません。
他には、どこの部分に一番いい色を持ってきたらより引き立つか、より効果的かを考えるために、実際に能の舞台を見て勉強したりもしています。
少しでも自分が作ったものが舞台上で、演者の方のお役に立てればと思っています。
入門して6年が経ちますが、先輩方はまだまだ遠い存在です。でも、機織りの仕事が好きだ、という気持ちだけは負けないつもりです。
初めて工房に入った時の気持ちを決して忘れることなく、これからも日々、精進したいと思っています。
正直なところ、最初はどうかな?と思いましたね(笑)
年も若いし、今までの私の経験上、長く続くかどうかの確信が持てませんでした。
ただ、〝この仕事をやりたい〟という彼の目は真剣でしたし、強い思いが伝わってきました。
いざ仕事を始めると、手先は器用だし、色彩の感覚や感性も良いな、と感じるようになりました。洋服も繊維を扱うという点では一緒ですから、長年服飾に携わっていた経験が役に立っているのかもしれませんね。
しかし、この仕事は、手先の技術だけが問題ではありません。大切なのは、いかに良い物を頭の中で考え、織物に表現するかです。そのことを理解している今の彼なら、将来きっといい職人になる、そう思っています。期待しています。
古き良き伝統が今も残る京都の街で、その空気を常に肌で感じながら育った筒井さん。
伝統を重んじながらも新しいものを吸収するバランス感覚を大事にしている若者。
工房ではひたすら技を磨き、心を込め織り込む姿が印象的だ。
この仕事への情熱を感じさせる眼差し。先人達の魂を受け継ぐ若者がここにいる。
また、家に帰れば良き夫、そして良き父。趣味でピアノも弾きこなす。
仕事場とは違う優しい眼差しが、そこにあった。
日本の伝統芸能、能楽において、演出に欠かせないのが能面と能装束である。
能装束は唄や舞を主としたシンプルな舞台において、演目の内容、そして、精神性をも表現する。
絹を主な素材とし、紋様や色調に特徴があり、役柄の解釈や演出と密接にかかわる。
繊細な柄と、重厚でありながら柔らかな風合いは、手織りならでは。