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ガラス造形作家
佐々木 俊仁

Sasaki Shunji
1987年 岩手県出身

進学した秋田県の美術大学でガラスと出会い、世界トップレベルの技術を学ぶため22歳で富山市に移住した。富山ガラス工房へ入所後、富山ガラス造形研究所の助手を経て、32歳で「S glass studio」を開設。指標にしているのが、祖母の箪笥に残されていた「裂き織り」。東北地方に伝わる伝統技法から着想を得た端材を再利用した「裂織りの器」、建築用の板ガラスを再利用した「Home」など、廃棄されるガラスに新たな命を吹き込む作品を通して、唯一無二の表現を目指している。

捨てるしかなかった端材を繋ぎ合わせていく。
個性豊かな端材を組み合わせることで、独特な景色が生まれる。

佐々木 俊仁さん インタビュー
ガラスの魅力

手で触れないもどかしさ、動きを止めれば下に垂れ、いびつな形で固まり、割れたり…。自在に扱えないから悔しい、悔しいからできるようになりたい、できるようになると楽しい、スポーツの感覚に似てます。ガラスという素材は未知で魅力的で、どんどんガラスに嵌り、気がつくとガラスのことばかり考えるようになっていました。
世界トップレベルの環境で技術を学び、富山市で経験を積んでこそ一人前だと思い移住を決意しました。技術を磨くだけでなく、ガラスを通じて多くの人に出会い、自分を育ててくれた富山市のガラス文化には感謝しかありません。ガラスがなければ今の自分は存在しないと思っています。これからは微力ではありますが、後輩たちが誇りに思ってもらえるガラスの未来を作っていければと思っています。

熱したガラスに息を吹き込む技法「吹きガラス」
吹き込む勢いや量を調整し、形を作っていく。

祖母が遺した「裂き織り」

祖母の形見の箪笥の中から色鮮やかな布が出てきました。手に取った瞬間、布から放たれるパワーに圧倒され、鳥肌が立つほど感動し、こういった力のある作品を作りたいと思いました。それは、着古した着物などを細く裂いて、再び織り上げ、新たな布に生まれ変わらせる東北地方の伝統技法「裂き織り」だと知りました。
昔の人は「モノを大切にする」気持ちを当たり前のように育んでいました。僕も捨てるはずだった端材で器を作ってみたんです。すると、ガラスが普段とは違う動きを見せ、面白いものが出来上がりました。様々な色彩が混ざった表情も、要らなくなったものを再利用する概念も、まるで祖母の裂き織りそのものでした。「裂織りの器」が生まれた瞬間です。僕が初めて祖母の「裂き織り」の布を見たときのように、何年、何百年の時を越えても感動が花開くよう想いを込めて制作していきたいと思っています。

様々な道具を使い、ガラスの形を調整していく。
実際に器を使用しているシーンを想像しながら、仕上げる。

廃棄されるガラスに
新たな命を宿して

ガラスには大きく工芸用と建築用板ガラスがあり、通常、器やアート作品に使われているのは工芸用ガラスで、建築用板ガラスは、冷めやすく、固まりやすいため、形を変えられる時間が制限されます。また、割れやすく、傷が入りやすいことから、ガラス造形作家には敬遠される素材です。そんな板ガラスを再利用した作品を作りたいと思っていました。恩師、富山ガラス工房の野田名誉館長のご尽力もあり、高岡市のガラス加工メーカー 三芝硝材と共同で、廃棄される建築用板ガラスの端材を日用品へと生まれ変わらせることに成功しました。美しい淡いブルーの器は、工芸と工業が融合した証です。これからは日用品だけでなく、静の板ガラスと動の吹きガラスの融合、工芸と工業がタッグを組むことで、ガラスの新たな可能性を見出していければと思っています。

取材を終えて

ガラス造形作家を夢見る若者たちと接する機会がありました。一人ひとりが夢に向かって汗を流す姿はキラキラとガラスのように輝いて、ガラスの未来は明るいと強く感じました。
今回、取材した佐々木さんも自身の夢を叶えるために富山市にやって来た一人。佐々木さんの作品の中に、捨てられるはずの端材で制作したものがあります。モノを大切にする気持ちや、端材一つひとつがかけがえのないもの、ということを教えてくれました。完成した器のどれもが廃材からできているとは思えない程の輝きを放っていました。
雪国出身の佐々木さんの器は色とりどりで鮮やかなモノばかり。まるで、待ちわびた春を迎え、満開に咲き誇る花のようでした。

小代焼

ガラスの街
とやま

世界有数の「ガラスの街」富山市。時代と共にガラスとの関わり方を変えてきた。300年以上の伝統がある越中富山の薬売りに端を発し、大正期にはガラスの薬瓶の製造が最盛期で多くのガラス工場が創業していた。現在は、全国初の公立のガラスアート専門学校、富山ガラス造形研究所や富山ガラス工房、富山市ガラス美術館など、世界に誇るガラスアートの一大拠点となり、人材育成や街の発展に取り組んでいる。

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