
Sakakura Shinbe 16th
Sakakura Masahiro
1983年 山口県出身
2017年に取材した坂倉正紘(当時33歳)。
山口県長門市に十五代坂倉新兵衛の長男として生まれる。
1657年、萩焼の御用窯として長門市深川湯本三ノ瀬に開窯した坂倉新兵衛窯。2024年5月、十六代坂倉新兵衛を襲名。窯元の当主としての重圧と責任を背負い襲名記念展に向けて作陶する。
萩の伝統土に自身が探した土を配合し、新しい萩焼の景色を創出したいと試行錯誤を重ねる。襲名後、蹴ろくろに本格的に取り組み、窯焚きの司令塔を任されるようになった。十六代新兵衛は、どんな景色を茶碗に映すのか?
父、十五代新兵衛より代を譲り受け、十六代新兵衛を襲名することとなりました。坂倉新兵衛窯は、萩焼の黎明期に萩藩の御用窯として開窯し、茶の湯を背景に茶陶を中心に作り続けてきました。
新兵衛の名は、歴代の当主に受け継がれ、襲名するにあたり、名前の重みや重圧を感じています。これまで培ってきた知見や作行きの蓄積だけではなく、萩焼・深川萩の歴史、風土、文化としての価値、そこに自分の創意工夫を合わせて品格を感じられる茶碗を作りたいと思っています。
時代には敏感に反応し、新しい感覚で作品に向き合いたいですが、軸となる部分は坂倉新兵衛窯で代々継承して来たものを大事にしていきたいです。
茶碗は茶道の中でも、お客様に正座して見てもらえる珍しいものです。それに対して僕らは良いものを作る責任があります。十六代新兵衛にしかできない萩焼を作りたいですし、一つでも良い茶碗をこの手から生み出せればと思っています。
萩焼は土の色で魅せる焼き物で土が勝負だと思っています。ここ近年、土の力をどう引き出せばいいのかを考え、一つ一つの素材のパワーを引き出せるようになった気がします。
現在、萩焼に使われている土は、歴史を重ねていく中で良いものが厳選されてきました。しかし、運搬技術が発達していない時代には窯場周辺の土を使って茶碗を作っていました。そんな遥か昔の陶工が見ていた茶碗の景色に憧れを抱いています。
失われた茶碗の景色をもう一度この手で・・・、そんな思いから自分の足で探してきた土を萩の伝統土に加えた「新しい土」に挑戦しています。土は生命線であり、その選別や配合が最後まで響いてきます。
土の可能性を探求して試行錯誤を重ねる。土へのこだわりが未来を切り開き、自分だけの茶碗の景色に辿り着けると思っています。古くから残っている茶碗は名碗ばかりで、良い茶碗だからこそ残され、時代を超えてきたものは単に古いからではない秘めたるパワーが宿っています。良いものを作って残していく事がいかに難しいことか、十六代新兵衛の茶碗として数百年の時を経ても語り継がれるような名碗を生み出したいと思います。
坂倉新兵衛窯は、焼き物を作るために作られた山里の集落にあります。陶工たちは焼き物と共に生きてきました。
深川萩は、茶道文化と融合し茶道と関わったことで開化しました。萩焼は茶碗を作るために生まれた焼き物で、当時、珍重された高麗茶碗は、茶人の美意識を叶えてくれる存在で、そのおおらかな佇まいと精神は現代まで生き続けています。
茶碗には2つの制約があります。限られた大きさであること、そして、お茶を飲む器であること。その中で、いかに自己表現をしていくか、奥の深い、幅の広いものだと思います。
十六代は、伝統に立ち向かい、土に情熱を傾けて自分なりの作風を模索しています。十六代の茶碗の中には萩の土では出せない景色、雰囲気のものもあり、大いなる可能性を秘めています。十六代新兵衛が新しい萩焼に出会い、伝統を守るために変わり続ける姿を陰ながら応援したいと思っています。
数年ぶりに坂倉新兵衛窯を訪ねると、時が経ったことも忘れるほど、あの頃と変わらない日本の原風景が広がっていました。森閑とした空気、せせらぎの音、野生動物の鳴き声、自然豊かな風土の中で作陶を続ける十六代新兵衛は、以前の取材後から自ら探した土を使った茶碗を制作するようになったそうです。装飾をそぎ落として土の質感で魅せる。静寂でいて大地の息吹を感じる茶碗には十六代新兵衛の土へのこだわりが詰まっていました。その茶碗でお茶を点ててくれました。そっと手に優しく馴染み、土の温かさを感じました。それが存在するだけで、温かくもあり、それでいて凛として空気を張り詰める。色々な表情を持った茶碗は、優しい眼差しで土を愛で、窯焚きの炎に真剣な表情で向き合う十六代新兵衛の人柄そのものでした。
16世紀末の朝鮮出兵の際に毛利輝元が朝鮮半島から陶工を召致し、当時珍重された高麗茶碗を再現しようと萩藩の御用窯として開窯したことに始まる。
「一樂二萩三唐津」と謳われるように、茶人をはじめ多くの人に愛された。萩城下に御用窯が築かれてから間もなく、長門市深川に分窯し、深川萩と呼ばれるすぐれた茶陶を生み出す地として知られる。
その手触りの良さ、ざっくりした土の味わい、侘びた風情の佇まいなどの特徴があり、貫入というヒビにお茶が染み込み、「萩の七化け」という言葉があるほど、使い込むほどに味わいが深まる。
近年、釉薬や焼成技術の進歩、またデザインの多様性から、茶道具をはじめ、日常食器やオブジェなど様々なデザインのものが作られるようになっている。